「被害者は女性だけじゃない」…いまだ軽視「男性の痴漢被害」、誰にも言えず泣き寝入りも

弁護士ドットコム

旧ジャニーズ事務所の大規模な性加害問題に端を発して、「男性の性被害」が注目されるようになった。

ただし、クローズアップされるのは、肛門性交や口腔性交を伴う性被害が中心であり、公共の場で知らない人間に触られる「痴漢被害」が声高に問題視されることは少ない。

痴漢被害にあった男性が弁護士ドットコムニュースの取材に「男性ゆえに痴漢被害を深刻に受け止めてもらえなかった」とうったえる。(弁護士ドットコムニュース編集部・塚田賢慎)

●痴漢被害者なのに「ケンカはいけませんよ」屈辱の暴行加害者扱い

編集部のLINEにメッセージを寄せたのは、関西に住む公務員の野村達夫さん(50代・仮名)。これまで3度も電車で痴漢されたという。

東京で働いていた野村さんは1999年から2000年にかけて、通勤中の混み合った電車内で2度やられた。当時、30代前半だった。

1度目は前方から男性器を、2度目は後方から臀部を触られたという。

いずれも加害者の男性の手をつかまえて、逃げられないように次の駅でホームに降ろし、「痴漢です」と周囲に助けを求めたが、誰も応じてくれなかった。

駅員からは「朝からケンカはいけませんよ」と暴行の加害者扱いされ、被害者だと説明しても、「あなたが触られたんですか?」と驚かれたという。

当時、強姦罪の被害者は女性に限られ、男性の性被害に対する理解は今以上に乏しかった時代の出来事だ(その後の法改正によって強制性交等罪、不同意性交等罪となり、男性も被害者とされる)。

「自分なら痴漢被害に遭わないはずだと思っていたことや、私なら触って良い相手だと認識されたことがショックで、怒りを感じました」

そして昨年、大阪の地下鉄御堂筋線で3度目の痴漢被害に遭った。取り押さえようとした加害者は「減るもんじゃないし、かまへんやん」と言い残して逃げていった。

20年前と違ったのは、駅員が野村さんの求めに応じて警察に通報したことだった。また、警察も被害届を受理したという。

●ゲイ男性だとしても、知らない相手から触られるのはイヤだ

野村さんはゲイで、男性のパートナーもいる。

「ゲイ男性とわかると『性行為の相手は誰でもいいんでしょ』などと偏見を言われがちですが、パートナー以外から触られることは不快でしかありません」

加害者のうちの1人からは「ゲイならどんな男に触られても興奮する」と暴言を吐かれたそうだ。

一連の被害を思い出して、いまだに腹が立つ思いだ。加害者はいずれも大柄で、 「自分より弱そうな相手を選んでいるのでは」と感じたという。

「男性なのに性被害に遭うことを恥ずかしいと感じて、警察や職場に言えずに泣き寝入りするケースもあると思います。私のように、警察沙汰になることで職場にゲイだとバレるのが不安で被害を届けられない人もいるでしょう」

野村さんの周囲でも、被害に遭っていると明かす男性は少なくないという。また、「幼いころに女性から痴漢された」という男性もいたそうだ。

●男性の1割が「電車や駅で痴漢被害の経験あり」と回答…東京都調査

東京都が初めて実施し、昨年末に公表した「痴漢被害実態把握調査」の報告書で、電車内と駅構内における痴漢被害経験は、女性で4割超、男性も約1割が被害に遭っており、ノンバイナリー/Xジェンダーの被害も少なくないことがわかっている。

野村さんは、自身が被害にあった数日後、同じ駅のホームで痴漢被害を泣きながら訴えた女性を乗客も駅員も助けていた光景が強く記憶に残っていると話す。

「女性も男性も痴漢されたらイヤなのは同じです。軽視するべきではありません。男性の痴漢被害は、語られないだけで、もっと多いのではないかと感じています」

引用元記事:弁護士ドットコムニュース