国連、日本アニメは「労働搾取」 ネットフリックスなどから排除も

日経ビジネス

国連が日本のアニメ業界について、労働搾取の問題があると指摘した。海外の配信会社や消費者の不買につながれば、日本アニメの成長はない。

2024年9月9日、政府がアニメや映画産業の強化を図る初の官民組織「コンテンツ産業官民協議会」の初会合を開いた。会合で岸田文雄首相(当時)は、「コンテンツの制作現場では、労働環境や賃金の支払いといった側面でクリエーターが安心して働ける環境が未整備」と語った。

 首相がこう発言した背景には、国連が5月28日発表した調査報告書がある。報告書は、国連人権理事会の「ビジネスと人権」作業部会が23年7月から8月にかけて実施した訪日調査の結果である。報告書で旧ジャニーズ事務所(現スマイルアップ)などのエンターテインメント業界と並んで指摘を受けた業界がある。アニメーション業界だ。報告書は、アニメーターの低賃金、過度な長期労働、不公正な請負関係、クリエーターの知的財産権が守られない契約などを指摘し、「搾取されやすい環境がつくり出されている」と結論付けた。

●作品排除「常にあるリスク」

 日本のアニメ産業は近年、外需をけん引役として成長しており、22年に市場規模は3兆円を超えた。24年6月に日本政府が「新たなクールジャパン戦略」を公表し、アニメをはじめとするコンテンツ産業を基幹産業に位置付けた上で、海外市場規模を33年までに20兆円以上にする目標を掲げている。

 今回の国連の指摘は、こうした成長期待を根本から崩しかねない。日本のアニメが人権を侵害して作られた作品であると見なされれば、米ネットフリックスや米アマゾン・ドット・コムなど動画配信サービスを展開する海外企業や人権意識が高い海外消費者などによる不買運動につながる可能性もある。

 24年7月2日、調査に当たった国連人権理事会のピチャモン・イェオファントン氏が再来日し、関係者と意見交換する場が持たれた。業界団体の日本アニメフィルム文化連盟の内山誠氏は、イェオファントン氏に「日本のアニメ作品がネットフリックスやアマゾンから排除される可能性はあるか」という質問を投げかけた。イェオファントン氏は、「それは常にあるリスクだ。人権侵害を改める必要がある」と答えたという。

 国連が指摘したのは、アニメビジネスにおける日本特有の「製作委員会」と呼ばれる慣習だ。製作委員会はアニメ製作に関連する企業の共同事業体で、アニメ製作会社、グッズメーカー、テレビ局、映画会社、広告代理店、出版社などが参加し、出資割合に応じた利益を受け取る。

 アニメ製作には大きな資金が必要となる。現在、30分枠のアニメを作るのに2000万~3000万円かかるのが一般的で、1クール(週1回放送で3カ月間)の作品を作るのに約3億円の資金が必要となる。数作られるアニメのなかでもヒット作品は限られる。製作委員会方式は、関係者でリスクを分け合いながら作品を作るのに都合が良い。…..

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