不倫の口止め料支払いをめぐる裁判で出廷したトランプ前大統領=米ニューヨークで2024
11月の米大統領選で返り咲きを目指す共和党のドナルド・トランプ前大統領(77)が、不倫相手に支払った口止め料を不正に会計処理したとされる事件で有罪評決を受けた。大統領経験者が刑事事件で初めて有罪評決を受けるという異例事態だ。今後の選挙運動はどうなるのか。
米国ではそもそも刑事事件の被告が選挙に立候補することを禁止する法律はない。1920年の大統領選で服役中の社会主義者が立候補した例もあり、トランプ氏は今後も選挙運動を続けることができる。当選した場合に大統領就任を阻む規定もなく、被告のまま大統領になるシナリオも現実味を帯びてきた。
トランプ氏は今後、有罪評決を逆手にとって「政治的な魔女狩りだ」「不当な裁判で、選挙干渉だ」との訴えを強めるとみられる。
この有罪評決はトランプ氏にとって打撃になる可能性がある。大統領選では、接戦州での得票が数万票違うだけで勝敗への決定打になるからだ。ロイター通信が4月に実施した世論調査によると、共和党員の4人に1人は、トランプ氏の有罪が確定すれば投票しないと回答。党穏健派が離反する可能性がある。
一方、公共ラジオNPRなどの5月下旬の世論調査では、勝敗のカギを握る無党派層の15%が「投票の可能性が増す」と答え、「減る」(11%)より多かった。裁判を「政治的な迫害」と位置づけるトランプ氏の訴えは有権者に一定程度響いており、「有罪なのに票が増える」という奇妙な結果になる可能性もある。
◇判事の量刑判断に注目
今後の選挙運動に影響を与えるのが、担当のマーチャン判事による量刑判断だ。量刑は7月11日に言い渡される。
実刑になった場合、トランプ氏が控訴したとしても、保釈継続が認められずに勾留される可能性がある。選挙集会や資金集めパーティーは開けなくなり、ソーシャルメディアの発信も規制される。共和党の候補指名を受ける予定の7月15~18日の党全国大会にも出席できなくなる。
ただ、法律家の間では、トランプ氏は前科がなく実刑になる可能性は低いとの見方が強い。
罰金刑のほか、自宅軟禁や保護観察の処分を受けるケースもあり得る。一方で、刑事施設に勾留されなくても、移動が制限されれば、選挙運動に支障が出る。
マーチャン判事はこれまでに「トランプ氏は大統領候補であり、憲法修正1条の権利(言論の自由)は極めて重要だ」と述べており、トランプ氏の言動を制約することには慎重だ。トランプ氏は裁判関係者への批判や中傷を禁じた「かん口令」にたびたび違反したが、マーチャン氏は収監を避けて罰金にとどめてきた経緯がある。大統領経験者で、有力な大統領候補でもあるトランプ氏への量刑判断は、判事にとっても難題となりそうだ。【ワシントン秋山信一】