「25gの食塩を100gの水に溶かした食塩水の濃度は」……算数が苦手な大人は25%と回答。正解は?

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現代ビジネス

食塩水の濃度や往復の平均速度など、仕事などでちょっとした算数の知識が問われる場面に出くわして、ドキッとしたことはないだろうか。「昔は解けたのに……」、そう思うのに解けない。そんな大人たちのために『
昔は解けたのに……大人のための算数力講義』(講談社+α新書)の著者で桜美林大学名誉教授の芳沢光雄氏が、「算数の基礎」の重要性を説く。
 『大人のための算数力講義』連載第1回

整数は「1対1の対応」を理解することから始まる

 客観的な議論で必須の「数(整数)」の起源を考えると、紀元前8000年頃から始まる新石器時代の近東で、様々な形をした小さな粘土製品の「トークン」に行き着く。それぞれの物品を管理するために、対応する特定のトークンを用いた。

 たとえば、1壺の油は卵型トークン1個で、2壺の油は卵型トークン2個で、3壺の油は卵型トークン3個でというように、「1対1の対応」(1つ1つに対応させる関係)に基づいて使われていた。その後、個々の物品の概念から独立して整数の概念が萌芽したのである。

 いわゆる「幼児教育」で、「イチ、ニ、サン、シ、ゴ、……、ヒャク、ヒャクイチ、ヒャクニ、……」と単に暗記させる教育を行っているところが一部にある。しかし、「1対1の対応」による整数の理解を軽んじていることから、十数人程度の人数を数えられない幼児の姿を何度か目にしたことがある。

3桁同士の掛け算の筆算、意味を理解して計算しているか
 3桁同士の掛け算で、たとえば

 493×738=363834

 の筆算を行うと、

 と書くことになる。ここにおいて、最初の段、2番目の段、3番目の段はそれぞれ以下の式を意味している。

  493×8=3944
   493×30=14790
  493×700=345100

 筆者が東京理科大学理学部から桜美林大学リベラルアーツ学群に移った2007年に、桜美林大学公開講座で上記の説明を丁寧に行ったとき、70歳を超えていた高齢の方が

 「今まではやり方だけ覚えていたが、この説明でよく分かった!」

 と言って、手を叩きながら喜んでもらった光景が忘れられない。

「1/2 + 1/3 = 2/5」と答える大学生の登場

 実は前ページと似たことが、以下のようにいくつもある。「ゆとり教育」が問題になった頃、

 1/2 + 1/3 = 2/5

 というように、分母同士と分子同士を別々に足した分数計算をする大学生が話題になったことがある。

 このような間違った計算をする大学生も、小学生の頃は、

 1/2 + 1/3 = 5/6

 というように、通分を用いて正しく計算できたのである。しかし、それを忘れてしまったために、間違った計算をしたのだ。

中学時代は解けたはずの食塩水濃度を間違える

 25gの食塩を100gの水に溶かすと何%の食塩水になるか、という問題に関して、

 25÷100=0.25

 と計算して、「25%」と間違えてしまう大人がいる。そうした人たちも、小中学生時代は

 25÷(25+100)=0.2

 と計算して、「20%」と正しく答えていたはずである。

 ちなみに、このような問題は、「ある集団における女子の割合は」という問いを考えてみればよい。問いの答えは当然、

 女子人数÷(女子人数+男子人数)

 であることが直感的に理解できるはずだ。同じように考えれば、食塩水濃度も正しく答えられるだろう。

往復の平均速度の求め方がわからない

 AB2地点間の距離が150kmで、AからBまでの行きが時速30km、BからAまでの帰りが時速50kmで走る車の「往復の平均速度」を考えてみよう。この種の問題は、なぜか就活の適性検査では頻出である。

 
この問題の答えは、30と50を足して2で割った40(km/時)ではない。
全区間を同じ所要時間で、同一速度にならして走行するときの速さを求めるのである。行きと帰りの走行時間はそれぞれ、

 150÷30=5(時間)
 150÷50=3(時間)

 である。そこで、往復の平均速度は

 (150×2)÷(5+3)=300÷8=37.5(km/時)

 となる。

間違いやすい「平均」の概念

 ある鳥の生息数を調査したところ、最初の1年間で3/2倍になり、次の1年間で8/3倍になり、次の1年間で2倍になったとする。このとき、それら3つの数を掛け合わせると8になり(3/2×8/3×2=8)、3年で8倍になったことがわかる。これを1年あたりの増加率にならせば、

 8=2×2×2

 となるので、「3年間を平均してみると、1年間に2倍になっている」と考えるのが正しい理解である。誤答の例としてよく見られるのは、3/2 と 8/3 と 2 を足して、その結果を3で割ったものを平均だと考える間違いである。

 クラスの生徒の平均身長のようなものとは異なって、「往復の平均速度」や「何倍の成長」に関する「平均」は、「全体をならす」という一般化した概念から「平均」を理解しておく必要がある。

 これらの平均に関しても、「アッ、そう言えば、そんな平均の話を聞いたこともあったな」という大人も少なくないだろう。…

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